今日、髪を切りに行った。
いつも行く店には、シャンプーの仕方がとっても好きな人がいる。
彼女が頭をマッサージする強さやリズムが、とっても心地良い。仰向けになっているので後頭部を洗うときは頭を持ち上げるんだけど、そのとき私の頭を支える腕がすごく安心できる。だから私のトリートメントマッサージは、たいてい彼女にしてもらっている。
今日もそうだった。彼女にやってもらってるときは、安心して任せていられる。
いつもと同じトリートメント剤。今日、そのにおいがフッとかかってきたとき、ある風景がフラッシュバックした。あ、ロンドンのにおいだ。
それはほんの一瞬だった。その風景をつかまえようとしたとたん、すり抜けていった。
ロンドンに行ったのは、もう20年以上前。そのときのことを思い出していたわけじゃない。むしろ彼女のマッサージに安心しきって、無防備に近い状態。
なんで急に思い出したんだろう。それも「思い出す」なんて大層なことじゃなくて、においと風景が直結してた。
あれは、ロンドンのどこのにおいだったろう。泊まっていたB&B? 地下鉄でかいだ、あの頃はやっていた香水のにおい? はっきり思い出せない。思い出そうとすると、どれも近くまで行きながら違う。後ろから肩をたたいたら違う人だった、そんな感じ。
思い出そうとすると思い出せないのに、においと直結してる風景がある。
こういうことが、たまにある。
たいていは五感のヨロイが緩んでいるとき、何か、ほんとにフッと鼻先をかすめたにおいと、私の記憶の引き出しにしまわれているなにかがつながる。風景だったり、だれかのことばだったり、歌声だったり、なにかの「感じ」だったり。
そんなとき、「私にも嗅覚があるんだ」って思う。それはちょっと誇らしくもあり、いつもは忘れていることが少し残念だったり、嗅覚に申し訳ないような気持ちになる。
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